75歳以上の約4割が5剤以上の処方!多剤内服をする高齢者に対する看護師の役割とは?|看護師の生き抜く術を知る!|看護師専門の求人転職サイト【看護師ドットワークス】

75歳以上の約4割が5剤以上の処方!多剤内服をする高齢者に対する看護師の役割とは?

75歳以上の約4割が5剤以上の処方!多剤内服をする高齢者に対する看護師の役割とは?

高齢者が多くの内服をする様子を日常的に目にする看護師は多いでしょう。厚生労働省の調査によると、調剤薬局では75歳以上の約4割に5剤以上の処方が実施されていると明らかにされました。

厚生労働省「平成30年社会医療診療行為別統計の概況」

「薬を飲むだけでお腹いっぱいになっちゃうよ。」

このような高齢者の声を耳にすることがありますが、多剤内服の弊害は満腹感だけではありません。

「クスリはリスク」の言葉どおり、内服薬にはリスクがつきものです。

看護師は処方された薬が正しく内服されているか管理するだけでなく、リスクにも着目し、減薬が可能であるかの視点も持たなければなりません。

今回は高齢者の多剤内服の弊害や原因、減薬へ向けた取り組みにおいて看護師が担う役割を説明します。

「高齢者の多剤内服」の弊害

「高齢者の多剤内服」の弊害
高齢者の多剤内服の大きな弊害は「副作用リスクの増大」と「医療費の高騰」です。それぞれ見ていきましょう。

まず、「副作用リスクの増大」です。薬を内服する目的は病気を治したり症状を改善したりしてQOLを上げることですが、多剤内服により副作用リスクも増大してしまいます。

代表的な副作用は睡眠薬や血糖降下薬、鎮痛薬の内服によるふらつきからの転倒です。高齢者の転倒が致命傷となり得るのは言うまでもありません。

東京大学病院老年科の研究においても、5剤以上を内服する高齢者の転倒発生頻度が40%に上ることが指摘されています。

厚生労働省「高齢者の特徴的な薬物動態と薬物治療の問題点」

「医療費の高騰」も深刻です。平成30年度の医療費は42.6兆円であり、調剤は17.6%を占める7.5兆円もの費用がかかっています。

厚生労働省「平成30年度 医療費の動向」

医療費の高騰は医療現場の負担増加をもたらし、ひいては医療の崩壊に繋がりかねません。医療費の内で大きな割合を占める薬剤の適正使用が求められます。

なぜ高齢者の内服薬が増えていくのか?

なぜ高齢者の内服薬が増えていくのか?
なぜ高齢者の多剤内服が起こっているのでしょうか?原因は高齢者、医療者、環境などの要因が複雑に絡み合っています。

そのため、あらゆる要因を総合的に考えていかなければなりません。それぞれの要因を見ていきましょう。

高齢者要因としては、内服薬への過大評価や依存が考えられます。つまり、内服することで安心感を得ようとする、ということです。

一度処方が開始され、習慣化された内服を中止することへの心理的ハードルは高いでしょう。また、内服薬の副作用の治療のための処方により、どんどん薬の種類が増えることを「処方カスケード」といいます。

処方カスケードは長い経過をたどって深刻な問題を引き起こすことも。服薬アドヒアランスが低下し、処方の指示通り内服しない高齢者も問題です。

NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」が高齢者約5,000人を対象にした意識調査によると、薬の飲み残しの経験があると47%が回答しています。

NPO法人 高齢社会をよくする女性の会「高齢者の服薬に関する現状と意識」

症状が改善しないからとさらに別の処方を求める高齢者もいるでしょう。

医療者要因としては、内服薬が効果的に処方されているかアセスメントが不十分な場合が考えられます。治療効果が伴わない内服薬が漫然と処方されていることは珍しくありません。

たとえば、進行した認知症に対し認知症予防の内服薬が処方され続けていたり、排便コントロール目的で一時的に内服されるはずの便秘薬が処方され続けていたりといった場面です。

本来は内服薬の効果をアセスメントし、不要であれば中止を検討すべきでしょう。

環境要因としては、高齢者ごとの内服管理がうまくいっておらず、異なる医療機関で重複した処方がされることが考えられます。様々な疾患を持ち複数の医療機関にかかる高齢者は、それぞれで処方された内服薬を自己管理しなければなりません。

お薬手帳の活用による対策が取られていますが、効果的であるとはいい難い状況です。お薬手帳の電子化やマイナンバーカードと高齢者の診療情報の紐付けなど、医療のIT化の環境整備が期待されます。

減薬への取り組み

減薬への取り組み
健康や医療費への弊害を生む高齢者の多剤内服ですが、減薬への取り組みも行われています。まず、国による取り組みが診療報酬改定における減薬加算やセルフメディケーション税制です。

2016年度の診療報酬改定では6剤以上を内服する患者が、退院の際に2剤以上の減薬に成功すると250点加算されるようになりました。セルフメディケーション税制は2017年に始まった医療費控除の特例です。

健康増進に努める方を対象に、薬局などで市販される医薬品での医療費控除ができます。健康増進への意識向上と医療費の抑制が目的です。
このように国は医療機関や高齢者へのインセンティブによる減薬に取り組んでいます。

また、日本老年医学会は「高齢者が気を付けたい 多すぎる薬と副作用」という、多剤内服への啓発パンフレットを作成し公表しました。非常にわかりやすい内容であり、医療者も目を通しておくことをおすすめします。

看護師は高齢者の生活に寄り添った指導・他職種へのフィードバックの役割を担う

看護師は高齢者の生活に寄り添った指導・他職種へのフィードバックの役割を担う
国や日本老年医学会の減薬へ向けた取り組みを紹介しました。実際に高齢者と直接関わる看護師はどのように取り組むべきなのでしょうか。

減薬を実現するにはチーム医療での取り組みが欠かせません。それぞれが専門性を発揮する必要があります。

医師は医学的な視点から高齢者を総合的にアセスメント、薬剤師は処方の適正化などが役割です。直接内服薬の処方に関わる医師や薬剤師の存在は大きいものですが、看護師は高齢者と関わる時間が最も長い職業でもあります。

看護師に求められる役割は、高齢者が指示通り内服する支援や副作用の観察だけではありません。高齢者の主観的訴えや客観的な変調を観察し、他職種へ適切なフィードバックをする役割が求められます。常に減薬の意識を持つことで高齢者との関わり方や観察が変わってくるでしょう。

また、生活習慣を改善することは減薬への効果的な取り組みです。最終的な減薬の判断は医師が行いますが、生活習慣改善への高齢者自身の取り組みを支える看護師の役割は多いでしょう。

生活リズムを整えることによる睡眠の改善や、運動療法・食事療法による生活習慣病の改善には個別性を重視した指導は欠かせません。看護師が高齢者の生活に寄り添った視点を持ちながら指導を行い、医師や薬剤師にフィードバックすることで減薬がスムーズになるのです。

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