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身体拘束を実施する病棟は90%以上!減らすためには看護師およびチームでの取り組みが必要

身体拘束を実施する病棟は90%以上!減らすためには看護師およびチームでの取り組みが必要

患者の行動を制限する身体拘束。身体拘束は患者の自由を奪い、人としての尊厳を損ねてしまう可能性があるため、本来は実施すべきではありません。自ら進んで身体拘束を実施する看護師はいないでしょう。また、身体拘束を批判する内容の特集がテレビで放送され、風当たりは強くなる一方です。

しかし、全日本病院協会の調査では「身体拘束を行うことがある」と65.9%の病院や施設が回答。病棟に限ってみると一般病棟、地域包括ケア病棟、回復期リハビリ病棟のいずれも90%を上回る身体拘束実施率です。

全日本病院協会「身体拘束ゼロの実践に伴う課題に関する調査研究事業」

したがって、身体拘束を実施した経験のある看護師は多いと思われます。臨床現場で働く看護師は患者の状態や人手不足により、身体拘束に頼らざるを得ない場面が多々あるでしょう。そして、「本当はしたくないのに…」と葛藤を抱えながら身体拘束を実施する看護師の精神的負担も見逃せません。今回は身体拘束の問題点や国の方針、減らすための取り組みを考えてみました。

身体拘束はなぜ問題視されるのか?

身体拘束はなぜ問題視されるのか?
まずは身体拘束が問題視される理由を知っておきましょう。身体拘束が問題視される理由は、患者や家族、ケアを行う医療者へ多くの弊害をもたらすからです。

身体拘束を実施される患者の多くは認知症です。認知症患者は、治療のためのドレーンや点滴の必要性を理解・記憶することが困難な場合があります。身体に挿入されたドレーンや点滴を煩わしく思い自己抜去することで生命に関わる重大な事故に繋がりかねません。

転倒が予測される、あるいは既に転倒歴がある場合もやはり身体拘束の対象となりやすいです。他にも弄便・不潔行為や著しい不穏性に対しても身体拘束は実施されます。

身体拘束が実施される患者の多くは、なぜ自分の行動が制限されるのか理解できません。理由もわからず身体拘束をされる患者は無力感を覚え、精神的苦痛が生じます。身体機能の低下や圧迫部位の褥瘡・神経障害、食欲低下、免疫低下も避けられません。

患者の家族が「かわいそう。入院させなければよかった。」と罪悪感や施設への不信感を抱くこともあります。

全日本病院協会のインタビューでは、「罪悪感などから現場の士気も下がる」という意見が聞かれました。身体拘束を実施する看護師の仕事への意欲低下も深刻な問題でしょう。

国や日本老年看護学会による身体拘束を最小化する方針がとられた

国や日本老年看護学会による身体拘束を最小化する方針がとられた
多くの弊害をもたらす身体拘束は実施件数が年々増加しています。厚生労働省が精神科病院を対象にした調査では、身体拘束が実施された患者数が平成16年~26年の10年間で2倍以上に増加したことが明らかにされました。

厚生労働省「精神保健福祉資料」

その後の診療報酬改定において身体拘束を最小化する方針が打ち出されます。まず、平成28年度の診療報酬改定で「認知症ケア加算2」が新設され、身体拘束の実施に所定点数を減点するペナルティが課されました。

そして、平成30年度の診療報酬改定においては、夜間看護加算に身体拘束を必要としない環境への取り組みが求められるようになったのです。

また、日本老年看護学会も「日本老年看護学会の立場表明2016」において、「身体拘束を当たり前としない医療・ケア」という項目が明記されました。目標達成に向けた具体的な方法には、「アセスメント後の身体拘束開始」「早期の解除」「限定的な使用」が挙げられています。このように、国や日本老年看護学会は身体拘束を最小化する方針に舵を切ったのです。

身体拘束を減らすには看護師個人およびチームでの取り組みと家族の理解が不可欠

身体拘束を減らすには看護師個人およびチームでの取り組みと家族の理解が不可欠
多くの弊害を生む身体拘束を減らすに、まずは看護師個人の意識の変容が必要です。厚生労働省は身体拘束をなくすためのガイドラインを打ち出しています。

厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」

ガイドラインによると身体拘束をせずにケアを行う原則として以下の3つが挙げられています。

①身体拘束を誘発する原因を探り除去する
②5つの基本ケアを徹底する(「起きる」「食べる」「排泄する」「清潔にする」「活動する」)
③身体拘束廃止をきっかけに「よりよいケア」の実現を

つまり、看護師は身体拘束を行わざるを得ない原因を特定し、ケアの徹底によって原因を除去していかなければならないということです。まずは、3つの原則を看護師個人が意識するところから始まります。

身体拘束を減らすための具体的な取り組みには、チームでの働きかけが必要です。身体拘束を行わない代替ケアをチームでカンファレンスし、定期的な評価を行います。例えば、ベッドから転落する危険がある患者に対し低床ベッドや床にマットを準備する、排泄パターンに応じたトイレ誘導などです。

また、状況に応じて必要不可欠な身体拘束は実施しなければなりません。身体拘束の本来の目的は患者の安全を守ることです。身体拘束によるメリットがデメリットを上回ると判断される場合は、躊躇せずに実施することもチームで共有しておきましょう。チームでカンファレンスして実施したケアであれば看護師の葛藤も緩和されるでしょう。

施設全体で身体拘束を減らす方針を強く打ち出すことも重要です。ガイドラインには「トップが決意し、施設や病院が一丸となって取り組む」と明記されています。

いざ、身体拘束を実施していない患者に転倒や自己抜去が発生した場合に、現場の看護師が責任を問われるようではいけません。施設のトップが現場をバックアップする姿勢が必要です。

患者の家族の理解も重要です。福祉大国であるデンマークでは、身体拘束を実施するには厳格な手続きや審査を要します。もちろん、デンマークにも認知症患者はいますが、身体の自由や本人の意志が尊重されるのです。

十分なアセスメントと対策を実施していても、転倒や自己抜去といった事故は防ぎきれません。患者の家族に対し、事故の可能性を十分に説明した上で理解してもらう必要があります。

身体拘束を減らす取り組みは高齢化への対策にもなる

団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」を目前とする日本。医療機関の資源や人材はますます不足していくでしょう。地域で自立して暮らすことができる高齢者の割合を増やしていかなければなりません。

身体拘束は高齢者の自立を妨げる要因の一つです。身体拘束を減らすことで医療機関から地域へ戻ることができる高齢者が増え、高齢化への対策となります。患者と接する時間が最も長い看護師が率先して身体拘束を減らす取り組みを実施することで高齢化への対策にもなるでしょう。

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