医師から看護師、看護師から他職種へ!業務を移行する「タスク・シフティング」|看護師の生き抜く術を知る!|看護師専門の求人転職サイト【看護師ドットワークス】

医師から看護師、看護師から他職種へ!業務を移行する「タスク・シフティング」

医師から看護師、看護師から他職種へ!業務を移行する「タスク・シフティング」

医師の長時間労働の実態は悲惨です。労働政策研究・研修機構の調査によると、勤務医の4割が週60時間以上の労働をしていることが明らかにされました。多くの医師が医師不足を実感し、特に過疎地においてはその傾向が顕著です。

労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」

そこで、医師の働き方改革の一環として他職種へのタスク・シフティングが提案されました。タスク・シフティングの影響を最も強く受ける職業が看護師です。患者の最も近くにいる看護師の業務範囲が拡大すれば、それだけ多くのニーズに応えることができます。

しかし、同時に看護師の負担増大に対する配慮も欠かせません。今回はタスク・シフティングが医療にどのような影響を与え、看護師はどのように対応していくべきかを考察していきます。

タスク・シフティングとは?

タスク・シフティング、看護師、医師
タスク・シフティングとは、医行為の一部を他の職種に任せることです。WHO(世界保健機関)が医療人材不足の部分的解消のために提唱しました。医療の適正化によって医療者それぞれの負担を軽減しながら、医療の質も確保することが目的です。

働き方改革により医療者、特に医師の労働時間が短縮されようとしていますが、患者には適切な医療がタイムリーに提供されなくてはなりません。タスク・シフティングが上手く機能すると、これまで医師しか実施できなかった業務を他職種が行えるので時間短縮や効率化に繋がります。

タスク・シフティングによる時間短縮や効率化の恩恵を受けるのは医療者だけではありません。迅速な処置により重症化を防いだり、患者の最も近くにいる看護師が生活に寄り添った医療を提供したりと、患者にとってもメリットがあります。

もちろん、医師による統括の元で医療が行われる原則は変わりません。タスク・シフティングのために新たな職種は設置されず、既存の医療者の業務範囲を拡大する方針です。

そのため、これまで以上に医療従事者がそれぞれの専門性を発揮し、自律的に判断できる範囲を拡大する必要があります。ちなみに、AI(人工知能)による医療者のタスク補助も期待されていますが、こちらはタスク・サポートであり別物です。

医師から看護師へのタスク・シフティング

タスク・シフティング、看護師、医師
タスク・シフティングの対象として提案された業務は、厚生労働省のホームページに記載されている6分野・284の医療行為です。

厚生労働省「第2回 医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/タスク・シェアの推進に関する検討会」

提案された284の医療行為で現行制度に適応できたのは193業務でした。この193業務の中でタスク・シフティング先が看護師となっているのは、およそ4割を占める78業務です。さらに、この78業務は下記2種類に分けられます。

①特定行為研修を受けた看護師のみが実施できる31業務
②特定行為研修を受けていない看護師でも実施できる47業務

①には、呼吸器管理、カテコラミンなどの薬剤の臨時投与、直接動脈穿刺法による採血、中心静脈カテーテルの抜去などが含まれます。
②には、胃管・EDチューブの挿入・管理・抜去、救急車での患者移送の同伴(重症を除く)、一部の検査の代行入力などが含まれます。

新たな手技の手順や根拠を勉強する必要はありますが、医師がその場にいなくても医行為が行えるので業務がスムーズになります。

また、特定行為とは別に議論が進められているのがNP(ナース・プラクティショナー)制度です。NP制度は臨床医と看護師の中間職と位置づけられており、診断・処置・処方が行えます。NP制度が実現に至れば、タスク・シフティングが大きく進むでしょう。

海外では既にNP制度が導入されている国もありますが、日本での導入は実現に至っていません。医療ニーズの拡大に伴ってNP制度の議論も深まっていくでしょう。

看護師から他職種へのタスク・シフティング

看護師、タスク・シフティング、薬剤師、臨床検査技師
タスク・シフティングが実施されるのは医師から他職種のみではありません。看護師から他職種へのタスク・シフティングは平成19年に厚生労働省の通知にて提案されています。

具体的な内容は、薬剤管理(ミキシング・残薬確認・薬剤の準備・在庫管理など)を薬剤師へ、採血・検査の説明を臨床検査技師へ任せるといった具合です。

看護補助者の業務は、看護師の指示・指導の元に専門的判断が必要のない範囲で実施できます。しかし、看護師から他職種へのタスク・シフティングは十分に進んでいないのが現状です。
タスク・シフティング先の医療者への支援や配慮も欠かせません。医療機関ごとに他職種を巻き込んだ業務分担を考えていく必要があります。

2040年ピークに達する医療ニーズに看護師はどう対応していくか

2040年、医療ニーズ、少子高齢化
2040年に日本の高齢者人口がピークに達すると言われており、同時に多くの医療ニーズが生まれると予想されます。拡大する医療ニーズに対応するための仕組みが地域包括ケアシステムです。
地域包括ケアシステムは高齢者が住み慣れた地域に住み続けることを目的としています。

タスク・シフティングにより看護師の業務範囲が拡大すれば、地域包括ケアシステムの中心としての役割が期待できるでしょう。

厚生労働省の患者調査によると、入院・外来受療率は徐々に減少していることが明らかにされました。

厚生労働省「平成29年 患者調査の概況」

これは地域包括ケアシステムの狙い通り、病院から在宅への流れが進んでいることを意味します。

看護師は高齢者を「医療」と「生活」の両方の側面から支える存在です。医療機関で医療を提供するのみではなく、地域からも高齢者を支える看護師の存在が重要になっていくでしょう。

幅広い知識と視点を持ち、さまざまな現場で活躍できる看護師の育成が求められます。

看護師の働き方改革も進めていかなければならない

タスク・シフティングの課題の一つに看護師の業務負担の増大が挙げられます。慢性的な人手不足や多すぎる業務量を抱える看護師にとって、タスク・シフティングが向かい風となってしまっては意味がありません。

タスク・シフティングの本来の目的は医療行為の適正化です。タスク・シフティングと同時に看護師の働き方改革も進めていく必要があります。業務の効率化を図り、多様な働き方によって看護師がその専門性を存分に発揮できる環境があってこそタスク・シフティングは上手く機能するのではないでしょうか。

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