特定看護師とは?認定看護師との違いも解説!
「特定看護師」という言葉はご存じですか?
特定看護師は、医療のニーズ増加に対応する手段の一つとして注目を浴びている制度のことです。2015年10月に施行された「特定行為に関わる看護師の研修制度」によって生まれた、新しい名称なのであまり詳しくない方も多いかもしれません。
今後、さまざまな場面での活躍が期待され、人数や知名度も増えていくのは間違いないでしょう。そこで今回は、特定看護師についての概要と、既存の認定看護師との違いについて説明します。ぜひ、参考にしてみてください。
特定看護師とは?
医療行為には医師のみが行える「絶対的医行為」と、看護師が診療の補助として行える「相対的医行為」の2種類があります。そして、この2種類の医行為には明確な区別がありませんでした。
そのため、特定看護師制度の制度によって、相対的医行為の中でもハイレベルなものが「特定行為」と定義されました。
特定看護師が必要となった背景
特定看護師が誕生した背景には、団塊世代が後期高齢者となる、いわゆる「2025年問題」があります。2025年問題を目前とし、高まる医療へのニーズに対応する手段の一つとして、特定看護師が制度化されました。研修制度の意義は、「①見える、②身につく、③見極める」という3点です。これは、「特定行為の範囲を明らかにし、高度な知識・技術を身につけ、患者さんの状態を見極める」ことができる看護師だと、言い換えることができます。
つまり、医師の指示通り動くだけではなく、自ら考えて高度な知識・技術を患者さんに提供する看護師が求められている、ということです。
特定看護師が増えるほど、医師の負担は軽減され、看護師の裁量による業務範囲が広がります。増大する医療へのニーズへ対応する手段として、有効なのではないかと考えられます。
2025年までに10万人越えが目標!
厚生労働省は「2025年までに10万人の看護師が特定行為研修を修了する」ことを目標に掲げました。しかし、厚生労働省の発表によると、特定行為研修を修了した看護師は約2万人に留まっています。(令和3年4月時点)出典:看護師の特定行為研修を修了した看護師数 (厚生労働省)
年々、着実に増加してはいるものの、このままのペースでは2025年までの目標達成は難しいと言わざるを得ません。
研修を修了するには、時間的・経済的・体力的な負担が避けられません。にもかかわらず、特定看護師になるメリットは見えにくく、興味はあっても現実的には研修が難しいと考える看護師が多いのが現状と言えます。
今後、特定看護師を増やしていくための課題として、職場でのサポート体制や研修機関の増加があげられます。制度の在り方が今後も問われていくのではないでしょうか。
特定看護師になるには?
研修機関は全国に272施設あり、宮崎県を除くすべての都道府県に設置されています。(令和3年2月時点)年々、研修機関は増加しているものの、まだまだ都道府県ごとの偏りが多いのが現状です。
また、指定研修機関であっても、年中研修を受け付けているわけではありません。機関ごとに開講時期や期間、募集人数が異なります。詳細は「看護師の特定行為研修のポータルサイト」で確認するのが良いでしょう。
受講資格
特定行為研修の受講資格は、指定機関ごとに異なり、「看護師経験5年以上」を条件としている場合が多いです。また、受講費用も一律ではありません。これらも合わせて、ポータルサイトで確認すると良いでしょう。研修の一部はeラーニングによる遠隔教育が行われています。お住まいの地域によっては研修機関が近くにないかもしれませんが、諦めずにさまざまな手段を検討してみると良いかもしれません。
共通科目と区分別科目
特定行為研修は「共通科目」+「区分別科目」により、構成されています。「共通科目」は、全員が一律に受講し、看護師の知識や技術の底上げが目的であり、7科目合計315時間の受講が必要です。「区分別科目」は、手順書により実施できるようになる、21区分38行為について、区分ごとに15~72時間の受講が必要です。研修機関により、受講できる区分が異なります。
特定看護師になると何ができるの?
看護師が特定行為を行うには、医師が作成する「手順書」が必要です。手順書に沿って、これまでは看護師が行えなかった特定行為が行えるようになります。
特定行為を行うには「手順書」が必要
医師が作成する手順書には、以下の6項目が記載されています。①当該手順書に係る特定行為の対象となる患者
②看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲
③診療の補助の内容
④特定行為を行うときに確認すべき事項
⑤医療の安全を確保するために医師または歯科医師との連絡が必要となった場合の連絡体制
⑥特定行為を行った後の医師または歯科医師に対する報告の方法
これらの項目に沿って、看護師は患者さんに対して特定行為を実施可能か判断します。
21区分38行為
特定行為研修を修了すると、21区分38行為の内で区分科目に含まれていた内容の特定行為を実施できるようになります。21区分には、「栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連」や「創傷管理関連」、「呼吸器(人工呼吸器療法に係るもの)関連」などがあります。
職場の対象者の特性に合わせて、必要な区分、行為の優先順位が変わってきます。加えて、研修機関ごとに研修を受けられる区分も異なります。
38行為には、「脱水症状に対する輸液による補正」や「褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去」、「人工呼吸器からの離脱」などがあります。
これらの特定行為の内、研修を修了したものを看護師が実施できるようになります。
特定看護師が現場にいるとどうなるの?
患者さんにとってのメリット、医療者にとってのメリットに分けて説明していきます。
患者さんにとってのメリット
患者さんにとってのメリットは、体調不良時にタイムリーに必要な処置が受けられることです。これまでの流れは、①異変を発見した看護師が医師に報告②医師から看護師に指示が出される③看護師が処置を行う、というものになっていました。しかし、特定看護師が現場にいると、①看護師が異変を発見する②指示書に従って処置を行う、という流れになります。
つまり、「医師に報告し、指示を受ける」という流れを省略できる、ということです。現場の状況によっては、医師への報告や指示受けに時間がかかってしまうこともありますよね。
辛い状況で少しでも早く対応してもらいたい患者さんにとって、特定看護師の存在はとても心強いのではないでしょうか。
医療者にとってのメリット
医療者にとってのメリットとしてまずあげられるのが、業務の負担軽減です。以前から「医師の働き方改革」が話題になっていましたが、昨今の新型コロナウイルス感染症によって、医療者の負担はより深刻になっています。医師と看護師の業務負担が軽減できると、患者さんに安定した医療を提供することにも繋がります。
もう一つのメリットとして、看護師のアセスメント能力向上が望めることです。特定看護師の存在によって業務の幅が広がり、看護師が考えるべき範囲が広がります。最初は大変ですが、長い目で見ると医療者としてより成長していけるのではないでしょうか。
特定看護師と認定看護師の違いは?
まず、最も異なる点として「資格の有無」があげられます。認定看護師は、日本看護協会により設立された資格です。それに対して、特定看護師は特定行為研修を修了すると、特定行為を実施できますが、新たに資格が与えられることはありません。
また、業務内容は重なる部分もありますが、すべてが同じというわけではありません。認定看護師は看護実践だけでなく、ほかの看護師への指導やコンサルテーションも業務に含まれます。
もちろん、特定看護師も現場で指導やコンサルテーションに携わる機会があるでしょう。ですが、認定看護師は有資格者として、より高い水準での指導やコンサルテーションが求められます。
認定看護師にも特定行為研修が必要となる
今後、認定看護師になろうと考える看護師には、特定行為研修の修了も必須となります。現在は、旧制度と新制度の移行期であり、特定行為研修を修了していない看護師が多数です。ますます増加する医療ニーズに対応し、よりレベルの高い看護実践ができる人材育成が求められていくでしょう。
まとめ
とは言っても、特定看護師になるには「やる気」だけでは、どうにもならないこともあります。職場の理解、研修機関の立地、経済的状況なども考慮しなければなりません。
今の職場では特定行為研修を受けるのが難しそうであれば、思い切って転職を検討してみましょう。複数の転職エージェントでアドバイスを受けることで、あなたのキャリアプランはより良い方向に進みます。ぜひ、気軽にご相談ください。
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