「忙しい時期に妊娠しないで!」マタハラに遭った看護師はどうすればいいの?
看護師は女性の多い職業であり、出産というライフイベントと仕事をどのように両立させるか悩む方は多いのではないでしょうか。本来、出産は喜ばしいイベントですが、残念ながら職場で嫌がらせを受けてしまうケースが多々あります。
近年、女性の社会進出が当たり前の世の中に変わりつつありますが、出産や育児への理解は十分ではありません。また、一定年齢以上のスタッフの中には、社会構造の変化についていけず、古い価値観を押し付けて妊婦さんを困らせる人もいます。
そこで今回は、「マタハラ」についての基礎知識や被害から身を守る方法についてご説明します。ぜひ、参考にしてみてくださいね。
マタハラとは?
具体的には、「妊娠をきっかけに出世コースから外される」「妊婦さんの体調不良に対して配慮がない」「保育園を利用することへの非難」などです。マタハラは男女雇用機会均等法と育児・介護休業法において禁止されています。
なにより、看護師は生命を平等に取り扱うべき職業です。いくら仕事が忙しいからといって、子どもを産み育てる人に対して差別的な言動は許されません。
また、マタハラに限らず、ハラスメントの加害者に多い特徴が「無自覚」ということです。とくに「女性は結婚・出産を機に退職して家庭に入るのが当たり前」という時代を生きてきた方にとって、近年の社会構造の変化についていけないのかもしれません。
しかし、社会は確実に変化しており、相手が「不快だ」「損をした」と感じた時点でマタハラだという認識にあらためていく必要があります。
4種類のマタハラ
NPO法人マタハラNetでは、マタハラを以下の4種類に分類しています。
① 昭和の価値観押しつけ型
② いじめ型
③ パワハラ型
④ 追い出し型の
引用:マタハラの基礎知識(マタハラNet)
それぞれの特徴を見ていきましょう。
①昭和の価値観押し付け型
「母親が家にいないとかわいそうだろ」「家庭を守るのが女性の仕事だ」
昭和の価値観押しつけ型のマタハラの特徴は、性別による役割分業を必要以上に押し付けてくることです。
たしかに、女性と男性のそれぞれにしかできないことや、適した役割はあります。
しかし、令和となった現代では、以前よりも性別による役割分業の考えが薄れてきました。時代の変化についていけない方が、悪意なくやってしまいがちなタイプのマタハラです。
本人はよかれと思ってマタハラに及んでいる点が非常にやっかいといえます。働き方や家庭の在り方に関して、多様性が認められる時代になりつつあるので、働く女性の意思が尊重されなければなりません。
②いじめ型
「理由をつけて休めていいよね」「なんで私がフォローしないといけないの」
いじめ型のマタハラの特徴は、悪意をもって個人を攻撃することです。
たとえば、出産や育児による正当な理由での休みや時短勤務に対して、陰口を言われるといった行為にあたります。
多くの場合、出産や育児のために休んだ分のフォローに回るスタッフが、不満のはけ口としてマタハラにおよびます。一見すると、マタハラを直接行うスタッフにのみ非があるような印象ですが、業務分担を行う管理職にも非がある場合が多いです。
いじめ型のマタハラが横行する職場は、出産・育児がしにくいため、独身者ばかりになっていく傾向があります。
とくに休んだ分の人員が補充しにくい、中小規模の医療機関に多いタイプのマタハラです。長い目で考えると、育児が落ち着いたタイミングで復帰してもらう方が助かるのに、目の前の業務負担にのみ注目してしまうことが原因かもしれません。
③パワハラ型
「人がいないからギリギリまで夜勤に入ってください」「妊娠は病気ではないので特別扱いしません」
パワハラ型のマタハラは、職場において業務を采配する立場にある管理職によるものです。妊娠や育児を理由に、休みや時短勤務を活用するのを許さず、長時間労働や負担の大きい労働を強制します。
産休・育休・時短勤務といった制度を使わせないパワハラ型のマタハラは、法律にも違反しているためわかりやすいでしょう。
実際のところ、明らかな法律違反によるマタハラよりも、出産・育児をする女性への配慮を行わないタイプのマタハラの方が多いかもしれません。
管理職が出産・育児をする女性へ配慮しないスタンスだと、職場風土もそのように染まっていきます。その結果、育休・産休・時短勤務といった、当然の権利が使いにくくなっていきがちです。
④追い出し型
「忙しい時期に妊娠なんて自分勝手ね」「残業できないなら仕事に来ないで」
追い出し型のマタハラの特徴は、組織的に出産・育児をする女性を職場から排除しようとすることです。パワハラ型は労働を強制するのに対し、追い出し型は辞めさせる方向に追い込んでいく点に違いがあります。
いじめ型とも似ていますが、両者の違いは、いじめ型が個人から個人への攻撃であるのに対し、追い出し型は組織から個人への攻撃であるという点でしょう。
信じがたいことですが、いまだに産休・育休を取らせない職場もあります。もちろん、これは法律違反になりますが、泣き寝入りによって見逃されるケースも多いのが現状です。
出世コースから外される「マミートラック」もマタハラの一種
マミートラックは、1988年にアメリカで生まれた言葉です。男性の多い職場における女性軽視が問題視され生まれた言葉ですが、女性の多い看護師の職場においても同様の問題は起こります。
その原因は、日本での「女性が家庭のことをするべき」という価値観が、根強く残っていることにあります。
そのため、いくら優秀なスタッフであっても、マミートラックに乗ってしまうと能力に見合わない待遇を与えられてしまうのです。
マミートラックの問題点は、優秀なスタッフのモチベーションが失われてしまうことです。どれだけ仕事を頑張って周囲にも迷惑をかけないようにしても、簡単な仕事しか与えられずキャリア形成ができなければ、やる気もなくなってしまいます。
そして、マミートラックは職場風土だけでなく、日本の労働環境全体の問題でもある点が難しい問題です。
女性の多い看護師の職場でもマタハラは発生する
また、看護師は医療者であり、責任感の強い人が多い傾向にあります。「忙しいのに私が抜けると迷惑がかかる」と、思い込む看護師も少なくありません。
そして、何より女性社会特有の複雑な人間関係の難しさが、背景にあるのではないでしょうか。「私たちの時は妊娠したら退職するのが当たり前だった」という、昭和の価値観押しつけ型マタハラは女性同士の間でも起こります。
マタハラの結果、切迫流産を経験する看護師は約3割
引用:2017年看護職員の労働実態調査(日本医療労働組合連合会)
なぜ、看護師に流産経験者が多いのでしょうか。その原因の一端に、マタハラが絡んでいる可能性があります。
妊娠時の母性保護の支援措置として、「夜勤・当直免除」を受けられた看護師は「49.9%」でした。
つまり、約5割の看護師は妊娠中にもかかわらず、夜勤が免除されなかったのです。
このような状況にもかかわらず、「マタハラを経験した」と回答する看護師は「10.5%」にとどまっています。多くの看護師が妊娠中の不適切な対応を経験しておきながら、マタハラだと認識できていない事実も問題といえるかもしれません。
職場でのマタハラの被害から身を守るためには?
①労働に関する法律を知って、権利を主張する
まずは、労働に関する法律を知り、正当な権利を主張することが大切です。労働者を守るための法律はありますが、知識をつけて活用しなければ、自分の身は守れません。そして、産休や育休の取得を不当に妨げる行為は法律で禁止されています。正しく法律を知り、権利が侵害された場合は、上司や先輩だからと言って泣き寝入りすることなく権利を主張しましょう。
あなたが勇気を出して権利を主張することで、同じ悩みを抱えていたスタッフを助けることにもつながりますよ。
②普段から助け合える職場風土づくりをする
いじめ型のマタハラの原因のひとつとして、「なんで私ばっかり」と考える看護師の不満があります。やり場のない不満やストレスが、マタハラという形で出てきてしまうのです。ですので、普段からスタッフ同士で助け合える職場風土づくりをし、不満が偏らないように配慮する必要があります。
自分のことばかり考えているスタッフは、出産や育児に際して周囲の理解や協力が得られないものです。「徳を積む」という言葉があるように、普段から周囲のスタッフに気を使い、信用を獲得しておくとよいかもしれません。
③職場でマタハラに関する知識啓発をする
「マタハラ」という言葉自体は世間に浸透してきていますが、どのような行為がマタハラにあたるかを理解できている人はまだまだ少ないのが現状です。残念ながら看護師の中には、「職場に妊娠の報告をするのが心苦しい」と考える人も多くいます。そのため、「マタハラとはどういうものなのか?」という知識啓発が必要といえます。ただし、個人での知識啓発は難しい部分があるかもしれません。
管理職や看護部に提案し、院内研修などで取り扱ってもらえないか相談してみるのもひとつの手です。
④職場では浮かれた雰囲気を出さない
妊娠や出産はおめでたいことであり、本来であれば周囲の人みんなから祝福を受けることです。ところが人によっては、素直に祝福できない事情を抱えている場合もあるかもしれません。それに、あまりにも幸せオーラを振りまきすぎると、不快に感じる人もいるのではないでしょうか。
よって、職場では浮かれた雰囲気を出さず、仕事は普段通りに行う姿勢をもつのが大切です。楽しみな気持ちもわかりますが、はしゃぐのは本当に仲の良い同僚とくらいに留めておくのが無難でしょう。
⑤相談窓口を活用する
いざ、マタハラを受けたときのために備えて、相談窓口を把握しておくのも大切です。相談先が明らかであれば、マタハラを受けた際に泣き寝入りしなくて済みます。まずは、所属部署の管理職に相談するのが一般的です。相談しにくい事情があれば、院内のハラスメント対策部署の活用も検討しましょう。
職場での相談に抵抗がある場合、外部の相談窓口も活用できます。たとえば、「女性のためのホットライン」「なんでも労働相談ホットライン」などです。
「これって、マタハラ?」といった、曖昧な相談でも遠慮なくしてみましょう。
職場のマタハラリスクが高い場合は転職を検討するのもあり!
そこで、育児と仕事を両立しやすい職場への転職も、選択肢として考えておくことをおすすめします。たとえば、育児のための院内保育園などの福利厚生がしっかりしている、ママさん看護師が多い職場などがよいかもしれません。
いまの職場で積み上げてきたキャリアをもったいないと思う方もいるでしょう。ただし、マミートラックに陥るリスクも考えなければなりません。
育児に理解のある職場だからこそ、得られるキャリアアップの可能性にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
まとめ
転職エージェントでは、育児と仕事の両立に不安を抱える看護師さんの転職支援を行っています。職場風土を変えていくのもひとつの方法ですが、現実的には自分が転職して環境を変えてしまう方が早いかもしれません。
そして、転職を成功させるポイントは、効率的に情報収集を行うことです。転職エージェントは医療機関と密に連携を取り、豊富な転職情報をもっており、あなたの転職をしっかりとサポートしてくれます。ぜひ、お気軽にご相談ください。
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