看護師の後輩指導に活かす「ティーチング」と「コーチング」とは?
後輩看護師が入職すると同時に必要になるのが「指導」です。とくに3~5年目の看護師はプリセプターとなり、後輩指導の中心的存在となる場合も多いのではないでしょうか。
「指導と言われてもどのように関わったらいいかわからない……」と、途方に暮れてしまう方も多いですよね。自分が理解するのと、後輩に指導をして理解させるのではまったく別物と考えるべきかもしれません。
後輩指導は「ティーチング」と「コーチング」の違いを知り、使い分けるのがポイントです。今回はティーチングとコーチングの違いや使い分け、指導に行き詰った際の対応についてご説明します。
ティーチングとは
後輩看護師への指導でいうと、先輩の業務に同行している後輩にその都度内容やポイントを説明する場面にあたります。ティーチングのメリット・デメリット、ポイントについてご説明します。
ティーチングのメリット
ティーチングのメリットは、共通認識としての知識や大量の情報を伝えるのに向くことです。1対1の指導だけではなく、集団への指導でも同様の効果が期待できます。病棟での指導では、新入職者に対して病棟ルールを説明したり、集合研修に活用したりできます。電子カルテの使い方、病棟の一日のルーティン、物品の配置などの基本的な共通認識は看護師誰もが持たなければなりませんよね。
また、最近は動画によるティーチングも取り入れられはじめました。動画によるティーチングは、聞き逃したり分からなかったりした部分を巻き戻して再生できる点で便利です。文章と写真だけのマニュアルよりも効果的なティーチングが期待できます。
ティーチングのデメリット
ティーチングのデメリットは、教えられる側が自分で考え自立する機会にならない点と、指導者の知識やスキルに依存する点です。そのため、明確な答えがない問題に対して、ティーチングは効果的とはいえません。看護師は患者さんと関わる機会が多く、個人の価値観に関わる問題によく直面します。明確な答えがない問題に対しては、自分の知識や経験、患者さんの価値観から適当な方法を模索しなければなりません。
ティーチングに頼りすぎると、マニュアル通りの対応しかできない看護師を育ててしまうリスクがあります。
ティーチングのポイント
ティーチングの効果を最大限に引き出すポイントは、5W1Hを明確にし、わかりやすい方法で指導することです。5W1Hは、「Who(誰が)、When(いつ)、Where(どこで)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どのように)」を意味します。仕事内容を伝えるだけではなく、「なぜ行うのか」を合わせた指導が必要です。指導の理解度を確認するためにフィードバックを求めたり、ロールプレイを実施したりすると、より大きな効果が期待できます。
また、教えられる側が指導に集中できる環境設定も重要です。仕事の合間の忙しいタイミングで指導を受けても集中できませんよね。しっかりと指導のための時間を確保し、ほかのことを考えなくてよい環境づくりをしましょう。
コーチングとは
コーチングのメリット
コーチングのメリットは、教えられる側の「自分で考える力」や「自発的な行動」、「多面的な視点」を育てられる点です。コーチングの主体は教えられる側であり、常に自分の考えと向き合わなければなりません。そのため、自分の考えと本質的に向き合い、やらなければならないことが明確になり、自発的な行動が引き出されます。
また、他者との対話を通して自分の考えと向き合うため、自分では気が付けなかった視点を発見できます。看護師にとって多面的な視点は不可欠です。自分の考え方のクセに気が付くきっかけにもできます。
コーチングのデメリット
コーチングのデメリットは、教えられる側に最低限の知識がないと成立せず、時間やエネルギーも多く消費することです。まったく知識や経験のない場面についての考えは引き出せませんよね。そのため、教えられる側に知識や経験の土台があることが前提となります。また、指導者と教えられる側の信頼関係も不可欠です。指導者には知識や経験に加えて、コミュニケーション能力も求められます。
よく不適切なコーチングとして見かけるのが、「どうするの?自分で考えて!」とひたすら質問攻めにする方法です。指導者は答えを与えませんが、考えを引き出すためのコミュニケーションは行います。
そのため、コーチングには知識や経験に加えて、コミュニケーション能力も求められ、誰もが気楽にできる指導法ではないのです。
コーチングのポイント
ティーチングの効果を最大限に引き出すポイントは、指導者が「傾聴」や「質問」、「承認」といったコミュニケーションスキルを組み合わせることです。「傾聴」は患者さんに対して行っている看護師も多いかもしれません。相手の話を否定したり、途中で意見を挟んだりせずに聴き抜くことです。教えられる側に「聞いてもらえている」という安心感を与え、自分の考えに向き合わせます。
「質問」は答えを求めるのではなく、教えられる側に多面的な視点を持ってもらうために行います。そのため、「どうして?」や「ほかには?」といった質問や、「この点についてはどう考える?」といった質問が効果的です。
「承認」は引き出した答えや考えに対して、肯定的な態度を取ることです。コーチングの目的は正しい答えを引き出すことではありません。考える過程や自発的な行動につなげることが目的です。
そのため、明らかに間違った考えではない限り、考えや行動を尊重して承認します。教えられる側が、自ら考えて行動を起こせるようになれば、より良い方向に自分で進みだしてくれますよ。
後輩のタイプや場面に応じた使い分けが重要
ティーチングが有効な例①「後輩の知識や経験が不足している」
経験年数が浅く、知識や経験が不足している後輩に対しては、まずティーチングで仕事に必要な知識や考えを与えるのが有効です。とくにミスの許されない医療行為やケアについてティーチングをする際には、必ず理解度の確認やロールプレイもあわせて行います。また、ある程度の経験年数がある看護師であっても、転職や異動で環境が変わったばかりの場合には共通認識がありません。知識や経験を活かすには、病棟ルールや一日のルーティンを知る必要があり、ここでもティーチングが活躍します。
ティーチングが有効な例②「すぐに指導の効果を活かして欲しい場合」
ティーチングによる指導は速効性が期待できます。そのため、患者さんへの対応やケアなどのすぐに指導の効果を活かして欲しい場面で有効です。新人看護師の場合は何をやるにしても、知識や経験が不足しており常に余裕がないものです。余裕がない状態では、考えたり自分なりに工夫したりできません。できることを増やして自信をつけてもらう、という目的においてもティーチングは有効です。
コーチングが有効な例①「後輩にある程度の知識や経験がある」
コーチングは後輩がある程度の知識や経験がある場合において有効です。指導者が答えを与えるのではなく、教えられる側が自らの知識や経験から答えを導き出すことで自立を促します。コーチングがうまく機能すると、後輩が自ら考えて行動しはじめるようになります。自分で考えて動ける看護師が増えると、病棟の雰囲気が良くなり業務改善も活発に行われることも多いです。
つまり、長い目で職場環境を良くしていこうと考えるのであれば、コーチングを通して自分で考え、行動するスタッフを育てていかなければなりません。
コーチングが有効な例②「今後の方向性を見出す場合」
キャリアプランや今後の方向性など、直接業務と関係がない場面で後輩の相談に乗る場面もあるのではないでしょうか。相談者本人がじっくりと時間をかけて考え、頭の中を整理するための機会としてのコーチングも有効です。答えは相談者から引き出されるべきものなので、指導者は丁寧に傾聴し質問をしていきます。とくに管理職に就いた看護師が、面談などの場面でコーチングを活用すると有効です。
ティーチングとコーチングを組み合わせると効果的な場合も
ティーチングとコーチングは組み合わせた指導も効果的です。たとえば、基本はティーチングの姿勢で後輩へ正しい知識を指導しながら、部分的にコーチングの姿勢で考える機会を設けるなどです。後輩看護師の理解度や性格に合わせた使い分けができるようになると、より効果的な指導につながるのではないでしょうか。
指導の場面は先輩看護師の成長チャンスでもある!
もちろん、普段から自分に与えられた仕事に対して、責任感や使命感を持っている方は多いでしょう。しかし、後輩への指導に伴う責任感や使命感は別物です。時には後輩看護師が指導の甲斐なく、ミスを繰り返すこともあるかもしれません。
単にミスを指摘するだけではなく、精神面でのフォローを行いながら再発防止を自ら考えられるように接することも大切です。
また、自信を持って指導を行うには、自分自身も正しい知識を身に着ける必要があります。普段何気なく行っているケアや処置、検査に対しても、指導するためには根拠の理解が不可欠です。
そのため、指導者となる看護師も基本に立ち返って学習する必要があります。あらためて学習をすると、新人時代には気が付かなかった新しい視点が得られるかもしれませんよ。
後輩指導で行き詰ったら関係性を見直してみる
後輩を萎縮させるコミュニケーションは成長を遅れさせる
指導に熱が入りすぎ、気が付くと後輩が萎縮してしまうコミュニケーションを取ってしまう場合があります。後輩が萎縮してしまうとコミュニケーションがうまくいかなくなり、自ら考えて行動できなくなってしまいがちです。また、萎縮は余計な緊張を生み、これまでしなかったようなミスにもつながります。関係性を見直すために、まずは後輩の表情や言動をよく観察してみましょう。指導以外の場面でコミュニケーションを取ろうとしなかったり、常に緊張した表情であったりすれば黄色信号です。
指導内容の見直し以前に関係性の改善が必要です。指導者側から気軽に声をかけて、後輩が萎縮せずにコミュニケーションが取れる状態か確認していきましょう。
関係性を改善すれば個別性のある指導ができる
関係性の改善がうまくいったら、次は指導内容に個別性があるか考え直してみましょう。個別性の考え方は看護計画だけでなく、指導の場面でも活かせます。指導の際、自分が教わってきたやり方を後輩に伝える方が多いかもしれません。しかし、指導内容が後輩には合わないことも考えられます。
時には後輩と指導方法について話し合ってみるのもいいかもしれません。お互いに尊重し合い、成長のために最善の方法を探していけるような関係性を作れるといいですよね。
まとめ
転職エージェントでは、新たな成長機会を求める看護師の転職支援を行っています。今の職場に不満はないけど成長を感じなくなった方は転職を考えるタイミングかもしれませんよ。
環境の変化はストレスになりますが、自身の成長にもつながるチャンスです。
転職を成功させるポイントは、転職者のニーズを明らかにし転職先とのミスマッチをしないことです。複数の転職エージェントに相談して、あなたのニーズを明らかにしながら転職先を探してみてはいかがでしょうか。
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