医療崩壊の定義
新型コロナウィルスの新規感染者が日々最高値を更新していくなかで、現在の日本は医療崩壊が懸念されています。それに伴って、さまざまなメディアで「医療崩壊」というワードを目にする機会が増えてきました。
一方で、「病気にならなければ関係ない」「よく聞くけど詳しくは知らない」といった人も少なくないのが現実です。医療崩壊は、医療従事者や新型コロナウィルス感染者だけでなく、健康な人にとっても重大な社会問題であるということを知っておかなければなりません。
そこで今回の記事では、以下の内容を中心に医療崩壊について解説します。
・医療崩壊って具体的にはどんな状況なの?
・医療崩壊は実際に起きているの?
・医療崩壊の防ぐには?
といった疑問を解決していくとともに、新型コロナウィルスと医療崩壊の関係についても解説していきますので、現在の日本の状況と照らし合わせて読んでみてください。
医療崩壊とは
医療崩壊の定義
一般的に医療崩壊は、医療従事者の疲弊や病院経営の悪化、患者数に対する病床の不足などによって、「必要な医療」が「提供される医療」を上回った際に使用されます。つまり、必要な時に医療を受けたくても受けられない状態です。医療崩壊が起こった例として、2021年4月~5月にかけて新型コロナウィルスの感染者が急増したインドでは、新規感染者が40万人におよびました。
インドはこの感染者の急増によって、首都圏の集中治療室は99.7%が埋まり、患者が病院に殺到しても受診や入院といった治療が受けられない状態となりました。また、医療用酸素が不足し適切な医療を受けられなかったために、患者が死亡するといった事例も発生しています。
ニュージ-ランドでは過去に公的医療費の削減が実施されました。これによって、医療サービスの質が低下しただけでなく、経営が悪化した公立病院は次々と閉鎖していきました。
病院の数が少なくなれば、それだけ医療を必要としていても受けられない人々は増えていきます。ニュージーランドでは、手術の待機時間が数年におよび死亡してしまった人などもいました。
これらの事例のように、さまざまな理由で「必要な医療が受けられない」状態を医療崩壊と定義します。
医療崩壊の原因
前述した各国の医療崩壊の事例でもわかるように、さまざまな原因が医療崩壊を引き起こしています。では、患者に必要案医療が提供できない状態となるのは、どのような原因が関係しているのでしょうか。■急激な患者数の増加
入院治療が必要な患者が病院の病床数を超える数となると、当然入院できない人は適切な治療を受けられなくなります。また、新規の患者を入院させるために入院中の患者を退院させるといった事態も起こり得ます。
つまり、まだ治療が必要なのにと思っていても退院させざるを得ない状況になり、必要な医療が受けられないという結果につながってしまうのです。
また患者の増加は、病床数だけでなく医療機器の不足も招きます。人工心肺をはじめとした重症患者に使用する高額な医療機器は、病院に少数しかない場合がほとんどです。
さらに使用するスタッフにも高度な知識と技術が求められます。患者数が増加すると、医療機器やそれを使用できるスタッフの不足によって、必要な医療が受けられなくなります。
■医療従事者の不足
医療従事者は、「病気などで困っている人の役に立ちたい」という思いを胸に日々医療を実践しています。しかし、医療従事者といっても人間ですから、日々の激務や勤務体系への不満、モチベーションの低下などによって心身ともに疲弊してしまうのが現状です。
医療従事者の疲弊は、ヒューマンエラーの増加などによる医療の質の低下、離職者が増えることによる人手不足などを引き起こします。
また海外では、医療従事者が賃金の問題から大量に海外へ流出したことにより、国内の医療従事者が不足するといった事態が起こっています。
医療は、それを担う医療従事者がいて成り立つものなので、医療従事者が疲弊や賃金の問題などで不足することは、医療崩壊の原因となり得るのです。
■公的医療費の削減による病院経営の悪化
ニュージーランドの事例でも触れましたが、公的医療費の削減は病院経営の悪化などにつながります。
たとえば、今まで1人の患者の診察を通して10万円の利益が病院に出ていたと仮定します。10人の患者を診ればトータルで100万円の利益がでることになりますよね。では、これが公的医療費の削減によって5万円になったとしたらどうなるでしょうか。
同じ10人を診察したとしても、最終的な利益は50万円と半額になってしまいます。その結果、病院はより多くの患者を治療することを強いられます。この例の場合だと2倍の患者を診察しなければ利益は同じになりません。
限られた時間の中で2倍の患者を診察するには、「一人当たりの患者にかける時間を削減する」「一度に診察できる患者の数を増やす」といった方法をとる必要があります。
一人当たりの診察時間を削減すれば、じっくりと診察すれば発見できた病気を見落とす可能性は高くなるかもしれません。実際にアメリカでは新型コロナウィルスの影響で、がんと診断される患者が減っているというデータも明らかになっています。
また診察できる患者を増やすには、設備費や人件費といった相応の費用がかかりますから、いずれにせよ病院の経営を圧迫することになるでしょう。
このように、公的医療費の削減によって病院経営が悪化すると、医療の質の低下を招き医療崩壊の原因となる可能性があります。
日本の医療へ新型コロナウィルスが及ぼす影響
近年の新型コロナウィルスの流行によって、日本でも医療崩壊の発生が懸念されています。実際に、現在の日本の医療現場では「患者の受け入れ困難」が大きな問題となっているのを知っていますか。
千葉県では60代の男性が、トイレで倒れ救急搬送される事例がありました。この男性は約39度の発熱が認められたため、新型コロナウィルス感染の疑いもあると考えられ搬送先を探していました。
しかし、30以上の病院に受け入れを断られ約4時間後に50キロ離れた病院に搬送されることとなります。その後、男性は死亡が確認され脳出血が原因と判明しました。一方で、新型コロナウィルス感染は確認されなかったということです。
通常この男性の容態で、30以上の病院に受け入れを断られることは考えにくいです。新型コロナウィルスの重症患者の疑いがあるとして搬送を拒否されたのか、患者数が多く救急対応ができなかったのかは定かではありませんが、新型コロナウィルスの流行が無関係とは言い難い事例といえます。
また感染者が連日過去最多を記録している首都圏では、県境を跨いだ搬送が困難になっています。東京に隣接している県の病院には、搬送の要請が入ることもありますが病床が埋まっているということを理由に断っているというのが現状です。
新型コロナウィルスを受け入れ先となっているどの医療機械も、人的・物的余裕がなく県内の患者を優先して受け入れている状況となっています。
それでは、諸外国と比べ人口に対する病床数の多い日本でなぜこのような事態が起きているのでしょうか。それには、医師不足と民間病院の受け入れ態勢が関係しています。
医師不足
日本は新型コロナウィルスの流行以前から医師不足が問題となっています。日本は人口あたりの医師の数でみると、ほかの先進国と比べ大きな違いはありません。しかし、病床数は他の先進国を大きく上回っています。つまり、新型コロナウィルス感染患者の急激な増加によって病床に対する医師が不足しているという状況です。
民間病院の受け入れ態勢
厚生労働省によると、2020年の11月時点で新型コロナウィルスの受け入れを可能としている民間病院は、全体の25%となっています。日本の病院のうち80%が民間病院であることを考えると、受け入れ可能な病院は決して多くありません。多くの民間の病院が受け入れ可能とならない背景には、新型コロナウィルスに対応できる十分な設備やスタッフが不足しているという現状が関係しています。
このように、日本の医療には新型コロナウィルス感染拡大の影響で、感染の有無に関係なく誰もが「受け入れ困難」に直面するかもしれない、医療崩壊の危機が迫っています。
医療崩壊を防ぐには
行政や各メディアから毎日のように「感染拡大防止」のための呼びかけがなされています。新型コロナウィルスの感染拡大による医療崩壊の危機に、個人として貢献できることは、「一人でも感染者を少なくし医療の負担を軽減する」という一点です。
自粛疲れなどによって、外出や感染対策の綻びを抑制できない現状もあります。しかし「もし自分や自分の大切な人が緊急を要する病気になったとき、必要な医療を受けられなかったら…」と考えるとどうでしょうか。感染者が増えるということは、誰かが必要な医療を受けられず命を失う可能性があるということです。
依然として新型コロナウィルスの感染収束の兆しがない日々が続いていますが、一人ひとりが感染しないことを心掛け、対策を実施していけば日本の医療崩壊を防ぐことにつながります。
まとめ
新型コロナウィルスの感染拡大は、医療崩壊の原因なる患者数の急激な増加を招き日本を含めた世界各国で医療崩壊の危機が迫っています。
その結果、日本では医療の抱える問題と相まって、患者の受け入れ困難などが発生し、新型コロナウィルス感染の有無を問わず国民全員の問題といっても過言ではありません。
一人ひとりが感染対策を徹底し、日本が医療崩壊を起こさないような努力が求められています。
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