看護師の負担を軽減する「業務改善」とは?
団塊世代が後期高齢者となる「2025年問題」を目前とし、看護師の需要が高まっています。しかし、看護師の仕事はハードであり、医療現場を支える人材が不足しがちであるのも事実です。
そこで、注目されているのが「業務改善」です。医療機関で働く人の多くが耳にした経験があるかもしれません。ところが、業務改善を実践し、効果を実感している看護師は少数なのではないでしょうか。
今回は看護師が取り組むべき業務改善について説明していきます。ぜひ参考にし、働きやすい職場づくりに取り組んでみてください。
看護師の業務改善とは?
「業務」とは、看護師が行う「療養上の世話」や「診療の補助」のことです。具体的には、患者さんへのケアや情報収集、多職種とのカンファレンスなど多岐にわたります。
そして「改善」とは、ある事柄の問題点を見出し、対策をすることで、実施前より良い状態にすることです。これは単に、時間短縮を図るだけではなく、実際に働く看護師の主観的な満足感を向上させることも含まれます。
つまり、看護師の業務改善とは、看護師が日々行っている幅広い業務について、問題点を見出して対策をし、より効率的かつ満足感の高い状態にすることです。
看護職の働き方改革の推進
2019年4月より働き方改革関連法案が一部施行されたことにともない、看護職の働き方改革の推進にも注目が高まりました。日本看護協会では、看護職の働き方改革として勤務時間やワークライフバランスの実現、労働安全衛生などに関するガイドラインを示しています。
注目すべきは、情報収集のための前残業や有給休暇に関する疑問に対し、明確に回答が記載されている点です。
働く看護職のための相談窓口も設置されていますので、もしものために一度チェックしておくとよいかもしれません。
業務改善の目的
そのため、なぜ業務改善を行うのか、業務改善の結果としてスタッフがどのような状態になるのかを理解していきましょう。
時間外労働の削減
業務改善によりムダをなくすことで、時間外労働の削減が期待できます。長時間労働はスタッフのモチベーションを低下させる原因のひとつです。そのため、時間外労働を少しでも減らすことで、スタッフの不要な消耗を避けられるでしょう。また、時間外労働には通常賃金の25%増しの手当が発生します。時間外労働を削減することで、医療機関は人件費の削減を実現できます。
もちろん、正当な残業に対しては手当が支払われるべきです。しかし、削れる人件費を削っておくことで、病院経営の安定につながります。職場の経営が傾いてしまうと、仕事が続けられなくこともありますので、見落とせないポイントといえるかもしれません。
看護師の負担軽減
病院や病棟の業務マニュアルは、作成されたときと状況が変わっている場合があります。中には、マニュアルを作成した当時のスタッフがすでに退職しており、不要な手順が改善されないままになっていることも珍しくありません。「決まりだから」と思い込まず、業務マニュアルにムダがないか見直すことで、看護師の業務負担の軽減が可能です。業務の手順を簡略化することで、新入職員への教育もスムーズとなります。
離職率の低下
看護師に多い離職理由が、時間外労働や業務負担の大きさです。業務改善により、これらの課題を解決することで離職率の低下が期待できます。離職率が高い職場は人間関係が形成しにくいです。その上、スタッフの入れ替わりにより、指導も業務に含まれてくるため、業務が増えてしまうという悪循環になってしまいます。
病院経営の視点でも、新入社員を雇用するのにはコストがかかり、望ましくありません。
医療安全の向上
業務の手順が多く、複雑であるほど医療事故が発生する可能性も上がってしまいます。業務改善により、余計な手順をなくしてしまえば、医療安全の向上が可能です。万が一、医療事故が発生してしまった場合も、業務手順がシンプルであれば早期発見ができるかもしれません。そして、医療事故の振り返りも容易になるため、今後の医療安全向上にも繋がります。
ハラスメント対策
ハラスメントの発生原因のひとつに「閉鎖的な職場風土」が挙げられます。業務改善を行わない職場は、古い慣習や長く在籍するスタッフの考え方が色濃く反映されてしまうものです。ベテランや仕事に慣れたスタッフにとって、多少業務マニュアルに不備があったとしても、仕事をこなせるので気になりにくいものです。ところが、経験の浅いスタッフにとっては大きなストレスでありながら、言い出しにくいこともあります。
定期的な業務改善は、職場風土を開放的にする効果も期待できます。とくに職場環境や業務マニュアルに疑問を抱きやすいのは、経験の浅いスタッフです。
経験の浅いスタッフの意見を参考に、業務改善を進めることで開放的な職場風土に近づけるのではないでしょうか。
業務改善を実現させるポイント
そこで、業務改善を実現させるための3つのポイントをご紹介します。
①業務改善の目的とゴールを明確にし、スタッフで共有する
まずは業務改善に取り組む目的と、どのような状態がゴールであるかをスタッフで共有することからはじめましょう。一言に業務改善と言っても、スタッフによってイメージや問題意識は異なります。また、業務改善には終わりがないため、区切りとしてのゴールを設定しなければなりません。
今回の業務改善はなぜ行うのか、課題に対し誰が対策に取り組むのか、どのような状態がゴールであるかをスタッフ間で共有していきます。
②課題の可視化、実践、評価の段階を踏む
実際に業務改善に取り組むには、まずは職場の課題の明確化、次に課題への対策の実践、そして評価を行います。看護過程の流れと似ているため、イメージしやすいかもしれませんね。課題の可視化の際に、複数の問題点が見つかることがあります。複数の問題を同時に解決できることが望ましいですが、実際はマンパワーが足りないことが多いため、優先順位をつけて取り組むのが無難かもしれません。
実践と評価はセットで考えておくと流れがスムーズです。どのような基準で評価をするのか考えながら実践することで、効率よく業務改善を進められますよ。
③反対意見が出ることを想定しておく
業務改善を計画すると反対意見を唱えるスタッフが現れる場合があります。そのような場合、無理に相手を説得しようとすると、後に人間関係のトラブルに発展しかねません。そのため、反対意見のしっかりと聞き、できるだけすべてのスタッフが納得のいった状態で業務改善に取り組むことが大切です。
もし、自分だけではトラブル回避が難しそうであると判断すれば、管理職に協力を仰ぐのも有効です。同じ立場のスタッフの意見よりも、上司が説明する方が、ことがうまく進む場合もありますよ。
看護師が取り組める業務改善の例
業務の5S活動
業務改善の基本とも言える「5S活動」とは、整理・整頓・清掃・清潔・しつけの頭文字から成ります。5S活動がまったく行われていない職場はほぼないと言っても過言ではありません。具体的には、ナースステーションや倉庫の物品の配置、使ったものをキッチリと片付ける習慣、申し送りの短縮化などです。
一部のスタッフのみで実践しても効果は期待しにくく、すべてのスタッフが同じように取り組むことがポイントです。
職種を超えた業務分担
看護師は他職種との協同が多い職業です。そのため、職種を超えた業務分担により、看護師だけでなく他職種の業務改善を図れることがあります。たとえば、これまで看護師だけで行っていた持参薬管理に薬剤師に業務分担することで、うまくいった事例があるそうです。薬剤師に仕事を押し付けるのではなく、専門性を活かして効率的な管理方法を教えてもらいます。
また、入退院の多い病棟であれば、医療事務員と書類のやり取りが煩雑になりがちです。互いにどのような点に不便を感じるか課題を見出し、対策を立てることでよりスムーズな業務が実現します。
業務改善に終わりはなく定期的な見直しが大切
日々の業務をこなしながら、問題意識をもつとスムーズな業務改善につながります。自分たちにとって働きやすい職場は、自分たちで作っていくのが一番の近道です。ぜひ、少しずつ業務改善に取り組んでみましょう。
まとめ
業務改善は一人で取り組むことはできません。必ず職場のスタッフの協力が必要です。もし、職場の雰囲気が業務改善に前向きでなく、働きにくさを感じるのであれば転職を検討してみましょう。
転職により環境が変われば、あなたの悩みは解消されるかもしれません。まずは複数の転職コーディネーターに相談して、あなたのキャリアを考えてみませんか。
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